『物流・運送業界の2024年問題』を知っていますか?
働き方改革法案により労働基準法が改正され、時間外労働の上限規定が2019年4月に施行されました。
しかし、物流・運送・建設・医療業界などに対しては、業務の特性上を鑑みて別の扱いとなり例外的に5年間の猶予期間が設けられていました。
その猶予期間が終了し、よいよ物流・運送業界にも時間外労働規制が2024年4月から適用されます。(トラックドライバーの時間外労働にも上限規制が適用される)
これにより、トラックドライバーの長時間労働の是正されますが、労働時間が短くなることで輸送能力が足りなくなる(1日に運ぶことができる荷物の量が削減となる)可能性が懸念されております。
トラックドライバー1人あたりの労働時間が短くなるのであれば、ドライバーを増やせば良い事ですが、これも少子高齢化による潜在的な人手不足はもちろん。以下の理由によってドライバーが足りない(集まらない)状況が深刻になることが問題視されています。
物流・運送業ではトラックドライバーの労働環境を改善する事が急務になっています。
その中でも見逃せないのが、トラックドライバーの付帯業務です。ドライバーの業務といえば運転(運送)だけと思われがちですが、運転業務以外にも様々な付帯業務があります。
特に、多くの現場では運送前の荷物を積み込む作業、運送後に荷物を積み下ろしする作業をドライバーが対応しているのが実情ではないでしょうか?(業界ではこの様な作業を【荷役(にえき)】と呼びます)
荷役では手作業(手積み)で対応する場合や、ドライバー自らフォークリフトを利用して、パレットへの積み替えや、空きパレットの収集なども行う場合もあり、ドライバーの重労働や長時間労働を発生させる大きな要因になっています。
この荷役についてては、国土交通省が業界に対して自発的なルールを順次求めていくことを打ち出しているため、今後はドライバーの負荷軽減を目指して運転業務と荷役の分業化が進んでいく事が予想されます。
荷役で利用するフォークリフト作業についてはロボットによる自動化が進んで行くと思いますが、現状はまだまだ人の手でフォークリフトを運転する必要があります。
そうなると、避けられないのがフォークリフトの事故です。
弊社では多くの物流・運送業のお客様とお付き合いがあります。その中でとある運送会社の社長が血相を変えてご相談に来たのは2021年頃でした。
お話を聞くと、2020年頃に自社ドライバーが納品先のフォークリフトで作業中に、納品先の社員に接触して足をケガさせてしまった事故の件でした。
事故の現場は「立入禁止構内」だったので、被災者は救急手配も拒み、内々の解決を望んだので、止む無く、それに応ずることで合意し、約1年間治療費の支払いを続けました。
その後、請求が途絶えたので、やっと治療を終えたと安堵していた所に、弁護士を介して「フォークリフト被災の後遺障害の損害賠償請求」訴状が届き、慌てて弊社に相談が来たのです。
結果として、弊社から顧問弁護士をご紹介し2年に及ぶ裁判で、賠償請求額の1/2弱で和解しましたが、それでも多額の支払いを免れることは出来ませんでした。
本来であれば、初期対応において通常の自動車人身事故と同じように、警察や救急車を呼んで対応していれば大きく拗れることもなく解決が出来る事故でした。しかし、相談時には事故から2年経過しており、今更フォークリフトの保険状況についても確認できず、被災者の勤務先(顧客)を巻き込んだ争いは心労も大きい裁判となりました。
この様なフォークリフトの事故事例から分かる通り、一般的な道路を走行する車両には、「道交法」が適用され、信号や標識に規制や警察指導もありますが、工場構内や工事現場内では、私有地となるため公的ルールがないため、自社指導と自己管理による防衛しかありません。
では、現実問題としてフォークリフトに起因する労働災害(事故)は、どの程度発生しているのでしょうか?
厚生労働省が労働災害状況について毎月速報で統計を出しております。その統計情報から一般社団法人日本産業車両協会がフォークリフトに起因する死亡労働災害の発生状況を取りまとめた資料がありますのでご紹介させて頂きます。
【引用・出典元】
フォークリフト事故統計の紹介 | 一般社団法人日本産業車両協会
労働災害発生状況 | 厚生労働省
フォークリフトに起因する災害発生件数ですが、青の棒グラフが「死傷災害」で、業務上の負傷、疾病及び死亡を含む件数です。オレンジの折れ線グラフが「死亡災害」で、死傷災害の中で実際に死亡となった件数となります。
2022年度は前年の2021年度と比較しても、死傷災害が10件増加・死亡災害も10件増加しております。全体的な推移でみると、2006年度から死傷災害・死亡災害ともに減少傾向です。
死傷災害は2016年度あたりから増加傾向となり2020年度のコロナ期間で一時的に減少し、その後また増加しているのが分かります。
死亡災害は2022年度の34件は過去10年で最も大きい数字となっている事や、一定の確率で死亡事故が発生していることが読み取れます。
業種別の「死亡災害」発生件数の推移(5年平均の比較)にて、上位5業種は以下の通りとなっております。
グラフから読み取れる通り、製造業、交通運輸業は減少傾向です。これは死亡事故が多いので業界が是正やカイゼンをした努力の結果だと推測されます。商業は一旦減少も、再び増加に転じているのが分かります。貨物取扱業は、概ね横ばい傾向で、建設業はやや増加傾向です。その他は、畜産業・水産業で、増加しております。
死傷災害と死亡事故の事故内容[事故型]別の割合(5年間平均)では、どのような内容の事故が多いのかが分かります。
死傷災害では「はさまれ・巻き込まれ」と、「激突され」を合計すると全体の62.8%になります。実に6割強がはさまれ・巻き込み+激突されになっており、フォークリフトによる事故で一番注意が必要な事故である事が分かります。
死亡災害では「はさまれ・巻き込まれ」と、「激突され」を合計すると全体の39.4%となります。死傷災害で6割を占めている事もあり、比例して死亡率も高い水準を示しています。
また、死傷災害では割合が少ない「墜落・転落」「転倒」が、死亡災害になると約3.2倍の比率となっていることから、「墜落・転落」「転倒」が発生した場合は死亡に至る可能性が高い事が読み取れます。
この様な事故内容から、フォークリフトの事故は一般の自動車とは異なりフォークリフト特融の「小回り」「速度」「可動域」に起因する事故である事が見えてきます。
では、実際にフォークリフトで事故が発生した場合、どの様な保険が適用されるのでしょうか?主に【労災】と【賠償】の保険を利用する事になりますが、事故形態によって以下の様に異なります。
「オペレーター自身」が、墜落・転落・転倒・激突などで被災する事故
│
├─自分自身の過失による自損事故【労災】<ポイント①>
│
└ ─他者の誘導・指示ミス、整備不良の事故【労災】+【賠償】<ポイント②③>
「オペレーター外の他者」が、フォークリフトで被災する事故<ポイント④>
│
├─同僚災害【労災】※重症の場合 →【賠償】
│
└ ─来訪者や同業者など同僚ではない被災者【賠償】
「臨時オペレーター」や、「派遣オペレーター」の事故
│
├─非同僚災害【賠償】
│
└ ─運転者の同僚【労災】
<ポイント①>
墜落・転落・転倒・激突など、自損事故が原因と推定される事故
⇒労災保険が適用されます。
⇒但し、過労等の使用者責任が問われる場合は、労災のみでは解決しません。
<ポイント②>
挟まれ・巻き込まれ・激突で、事故原因に第三者の可能性ある事故
⇒運転者・被災者、共に同じ会社の従業員の場合、労災保険が適用されます。
⇒但し、被災者が来訪者や下請け社員の場合は、損害賠償事故(被災者が労務中で
あれば、被災者側の労災適用可)となります。
⇒ナンバー付のリフトで、自賠責加入していれば、自賠請求も出来ます。
<ポイント③>
フォークリフト側に、整備不良はなかったか?
⇒労基署や警察署が原因調査して、整備不良が指摘された場合、被災者の立場≠但し、賠償責任は、双方の主張が異なり、認定には時間も要しますので、被災者優先で、書類手続き如何で、労災や健保が認められる場合があります。
<ポイント④>
フォークリフト側に、整備不良はなかったか?
⇒構内車の事故は、フォークリフト運転者も被災者も、同じ会社の同僚になる事例、所謂、労災保険の、「同僚災害」がほとんどです。但し、事故内容次第で、被災者が同僚運転手や使用者の会社を相手に、「労災民事賠償訴訴訟」を提起する案件も増えています。
⇒更に、来訪者を被災させる事例や、フォークリフトを他人が借用していて構内作業員を負傷させる事故もあります。このように他人が絡む純粋な同僚災害に該当しない事故は、治療費や休業損害補償では収まらず、自動車事故並みの「慰謝料」含めた賠償金が請求されます。
フォークリフトに起因する災害(事故)の備えは、「労災」か、その「上乗せ保険(業務災害保険)」で終えている例がほとんどですが、上述したとおり「賠償保険」についても検討が必要です。
※上乗せ保険(労働災害保険)とは?
法律改正もあり、広く普及している保険「労災保険の上乗せ保険」であり、補償は労災の範囲を超えた部分も担保出来ます。但し、飽くまで、自社社員の上乗せ補償で有り、来訪者や自社以外の被災者をカバーすることは出来ません。
労災の同僚災害では、仲間への遠慮や、会社と円満な関係を維持する為の配慮がありましたが、弁護士に相談すると、民事訴訟に誘導される例は多く、自動車保険同様に賠償保険の備えが必要であります。
例えば、以下の場合は「賠償」の問題に発展するため注意が必要です。
では、具体的にフォークリフトの賠償保険についてご紹介します。
公道を走らない限り、自賠責加入の必要はありませんが、オペレーター自身の人損を除き第三者に負傷を与える事故が発生した場合、労災枠を超えた補償で償うことができるので、好示談条件を提示することが出来ます。
自賠責保険は、公的保険にて、民間の示談交渉は有りません。従って、通常の車同様に自賠責に自動車保険の上乗せ契約を締結します。対人賠償のみの備えで、保険料支出を抑えるのも一案です。但し、同僚災害は対象外となる場合があります。
自賠責を付帯しない構内車の「自動車保険契約のトラブル相談」を受けることがあります。
お客様が、自動車保険に加入したいと申し出た結果、手続き代理店は、自賠責が付帯されているものと早合点した(或いは知識欠如による予見不足)痛恨の契約です。
この場合、自賠責保険枠内は、お客様ご自身のご負担になり、自動車保険の示談交渉も受けることが出来なくなります。
車検が無いと、自賠責の期限を見逃すことが有ります。この特約は、自賠責部分の補償枠を任意の自動車保険に組み入れる特約です。(示談交渉は有りますが、自賠のような被害者救済には成りません)また、前項同様に、同僚災害は対象外となる可能性があります。
事業者、雇用者が、事業種別毎の賠償保険に加入する方法です。保険料算出基準は、売上高や占有面積や活動人数で異なります。②③同様、賠償保険なので、事故状況次第で責任割合が適用されます。パッケージ型なので、付保もれなどは起こりません。
フォークリフトは急回転が出来る一方、構内従事者は構内ゆえの不注意も多く、重大事故につながる傾向があります。
更に、納品に来た貨物運転手の、臨時作業中の事故も多く、管理者責任・所有者責任の「賠償責任保険」も必要になるかと存じます。
この様な、フォークリフトに関する様々なリスクに対して、どの様な保険が必要か?無駄な保障はないか?などのアドバイスが可能です。
物流・運送業界の皆様でお困りの方は弊社までご相談ください。最後に、最低限ご確認して頂きたい注意点をお伝えします。